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地域ネットワークを生かした研究活動。
今、九州が熱い!

佐賀大学
 近年、生産拠点を九州地区へ展開する企業が増えています。
広大な土地を有し、海を隔てれば韓国、台湾にも近い―――。1970年代までは製鉄、80年代には大手半導体メーカーの進出、90年代には自動車産業も盛んになり、今では九州地区に生産拠点を置く企業が増え、その地の利に熱い視線が注がれています。そう、九州は今や日本のものづくりに欠かせない地域なのです。

 今回は、九州におけるものづくりの中心的な地域である九州北部に位置する佐賀大学を訪問させていただきました。お話を伺ったのは、理工学部機械システム工学科 教授 工学博士 萩原世也 先生、准教授 工学博士 只野裕一 先生です。


シミュレーションとの出会い
 萩原先生のご専門分野は、計算力学、材料力学、破壊力学です。先生が修士課程の時に、現在は京都大学にいらっしゃる宮崎先生に師事したことがきっかけで、シミュレーションの世界に入りました。「もちろん、学生のころは、自分で有限要素法のプログラムを書いていましたよ。」と萩原先生。佐賀大学に赴任される前の九州工業大学情報工学部と九州大学工学部の時代も、ご自身で解析のプログラムを書いてそれを使用されていました。

 しかし、「解析結果を見て判断する」ためには、計算結果のグラフによる出力だけでは不十分で、やはりもっとビジュアル的なプリ・ポストが必要でした。そのためには汎用の解析ソフトウェアを使うのが最良だろうとお考えでした。その後、1997年に佐賀大学に赴任され、この頃からMSCの非線形構造解析Marcを継続してご利用いただいています。

只野 裕一 先生
佐賀大学 理工学部
機械システム工学科
准教授 工学博士
只野 裕一 先生
 また只野先生のご専門は、金属の分野です。1998年に慶應義塾大学の学部生だった際に、有限要素法解析ソフトウェアを使うカリキュラムがあり、その際にMarcを使用されました。これがきっかけでシミュレーションの世界に入ったそうですが、実際に研究室に入った後は、汎用ソフトウェアを使うのではなく、やはりご自身でプログラムを書いたものを使用されていたそうです。佐賀大学には、この春に将来を期待された敏腕研究者として赴任されました。
萩原 世也 先生
佐賀大学 理工学部
機械システム工学科
教授 工学博士
萩原 世也 先生


汎用非線形構造解析Marcをフル活用
 萩原先生のMarcを使った事例は多岐にわたります。原子力などの大型製品、燃料電池のような先端市場の製品、さらには医療分野でもシミュレーションを積極的に活用されています。しかも、そのほとんどが、地元企業との共同研究や、違う分野とのコラボレーションで行われています。先生のネットワーク力を知ることができました。

 たとえば2000年には、Marcのユーザーサブルーチンを使って、原子力冷却系配管の損傷について解析を企業と共同で実施されました。これは、原子力の事故、シビアアクシデントと言いますが、炉心が溶けて、放射性物質が配管の中に出てしまい、配管の面に付着した放射性物質がさらに再分裂を起こして、1,000度を超える熱が出てしまうので、この発生した熱と時間経過によって起こる損傷についての解析を行いました。

局所加熱を受ける冷却配管の損傷解析 局所加熱を受ける冷却配管の損傷解析 局所加熱を受ける冷却配管の損傷解析 局所加熱を受ける冷却配管の損傷解析
局所加熱を受ける冷却配管の損傷解析

 またコンクリートなどの耐火物を取り上げ、反応膨張についての実験を行い、耐火物に対する熱が1,500度ぐらいまで上がるにつれて示す非線形挙動について検証し、その挙動を、ニューラルネットワークを使って、Marcのユーザーサブルーチンに取り込むことも実施しました。この際の反応膨張は、反応、ひずみ、速度として値を設定しました。これは、実験で得られたデータの検証と解析の実施を行い、双方がほぼ同じ挙動を示すことを確認して、ユーザーサブルーチンに取り入れて、企業と共同で、実際のものづくりに適用したという例です。

水素吸蔵合金貯蔵タンクの解析
水素吸蔵合金貯蔵タンクの解析
水素吸蔵合金貯蔵タンクの解析
 さらには、燃料電池に使われる水素を貯蔵する合金タンクの膨張の解析も、かなり早い時期に行っていらっしゃいます。水素合金タンクの中に、水素を充填するとタンクが膨張しますが、その膨張を予測する内容の研究でした。発生する膨張は、応力ひずみ線図と膨張曲線というものを作って、この2つを合わせた数値で表現をしました。

 燃料電池の開発課題の1つとして、水素の貯蔵方法は重要です。しかも合金タンクは、どうしても吸蔵量が少なくなりがちです。合金タンクの可能性を検討することを目的に、この研究も企業の依頼を受け、10気圧の水素を、合金タンクに充填する際の実験データと解析データの双方から進めた研究でした。


 先生は、異分野とのコラボレーションも精力的に進めています。佐賀大学の医学部 整形外科と共同で、様々な解析ツールを適用して、人工関節の解析を行いました。萩原先生によれば、「最近、医療分野でのシミュレーション適用も増えてきていると思います。われわれの人工関節プロジェクトは、整形外科での医学的な検討を、シミュレーションで再現するというアプローチでした。
 たとえば、整形外科で患者さんの症状に合った関節の形や、生体内にそれを組み込んだ時の神経や筋肉にどう影響するか、などを検討します。そしてわれわれ側は、整形外科側の検討を、機構や構造の面からシミュレーションをして、課題解決の方向性を提言するということをしました。」

 「最も新しい研究は、ファインブランキング加工という、つまり打ち抜きのことなのですが、これにMarcを使った解析を取り入れています。」と萩原先生は続けます。素材から部品を打ち抜く際に、パンチとカウンターパンチの両方を押さえて部品を打ち抜くと、せん断面が“だれ”ずに、正確に部品を切り取ることができます。通常の打ち抜きと、ファインブランキングによる打ちぬきでは、できあがる部品のせん断面の違いが一目瞭然です。
 ファインブランキングを用いて、いかに正確に、きれいに部品を打ち抜くかということには、パンチとカウンターパンチを抑えの位置、抑える役割をする突起、また抑えの際に発生させる力が重要なんだそうです。これらをモデル化して、Marcを使ってシミュレーション検討をされています。
ファインブランキングの概要 通常の打ち抜き。断面が、だれているのがわかる。
ファインブランキングの概要 通常の打ち抜き。
断面が、だれているのがわかる。
ファインブランキングで打ち抜いた場合。押さえる部分や、加わる力によって、打ち抜きの精度が変わる。 ファインブランキングで打ち抜いた場合。押さえる部分や、加わる力によって、打ち抜きの精度が変わる。
ファインブランキングで打ち抜いた場合。
押さえる部分や、加わる力によって、打ち抜きの精度が変わる。
研究室でのMarc計算結果の様子。
研究室でのMarc計算結果の様子。


九州デジタルエンジニアリング研究会(KDK)
 「萩原先生、只野先生は、大学外での活動にも積極的に参加をされています。九州デジタルエンジニアリング研究会(KDK)は、九州地域近郊の産学官連携により、CAE/CAD/CAM/RPなどのコンピュータ援用技術の向上と、デジタルエンジニアリング技術を駆使した21世紀型モノづくり支援への活用を進めるオープンな情報交換の場としての研究会です(当研究会ホームページより)。

 この研究会は4年ほど前に組織され、年に3〜4回の定例会を開催して、情報および意見交換を行っています。九州地区にやってくる、大企業の生産拠点の中では、既にシミュレーションが展開されていることが多く、シミュレーションの知識も経験も豊富でレベルが高い場合が多いそうです。しかし、九州地区のものづくりは、やはり地元の産業が支えているわけですから、地元の中小企業がこれから、どのぐらい真剣にシミュレーションに取り組むか、どのようにして導入時の課題を払拭していくか、ということが重要になってくると先生はコメントされています。「九州地区は、われわれ自身でもっと盛り上げていくという意識で、いろいろなソリューションの紹介や、ネットワークの構築を積極的に進めていきたいです。KDKは、今後の九州地区ものづくりの発展に、大きく貢献していくと思います。」と萩原先生は続けていらっしゃいます。

 ※ 九州デジタルエンジニアリング研究会の詳細は、こちらからご覧になれます。


今後の研究展望
 さて、今後の萩原先生、只野先生の研究活動の展望はどのようなものなのでしょうか?
「今は、ベンダーが提供する風雪に耐えた汎用ソフトウェアが揃っていて、製品開発の現場ではそれらが大変、役に立っていると思います。ですから、われわれ大学で研究をする立場としては、やはりアカデミックなところで“何かをつきつめていく”、というある意味、多少、浮世離れしたような深い研究をしていきたいですね。そういう点では、自分で解析コードをしつこく書く、ということもずっとつづけたいです。」と只野先生。
 「しかし、せっかく研究するのであれば、それが社会の役に立つように、企業にフィードバックできるような活動を、意識的にしたいと考えています。研究者の立場でのバランスを取って、アカデミックにも、企業にも、そして地域にも貢献したいですね。」只野先生は、今後の活動に大変、意欲をお持ちです。
萩原 世也 先生、只野 裕一 先生

 「北九州地区は、日本のものづくりにおいてますます重要でユニークな立場を確立していくと思います。MSCからの支援も、是非、期待したいです。」萩原先生にも、最後にこうコメントをいただきました。

 両先生には、大変貴重なお話を伺えました。ありがとうございました。


佐賀大学 本庄キャンパス
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住 所 〒840-8502 佐賀市本庄町1
URL http://www.saga-u.ac.jp/
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